「免疫力」の誤解
「免疫力」とは
“新型コロナ感染症”の出現以降、「免疫力」という言葉が、さまざまなメディアでとびかうようになり、皆さんもどこかで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「免疫力」を辞書でひくと、『体内に侵入したウイルスや細菌などの病原体や毒素を異物(非自己)として認識し、生体を防御するためにこれを排除しようと働く力。「免疫力の増進・減退」「免疫力の上昇・低下」「免疫力が上がる・下がる」「免疫力が高い・低い」などと表現し、免疫力の低下は生体が病気にかかりやすい状態をつくりだす。』とあります。
日本語としては使用されていますが、じつは医学用語として「免疫力」という用語の定義はありません。それは、医学的に「免疫」は「力」ではなく、「システム(機構)」だからです。体内の免疫システムは複雑で、“これをこうしたら、免疫力がUPする”などと単純に言えるものではありません。
機能性表示食品の「免疫ケア」
たとえば「免疫」というキーワードを持つ機能性表示食品に、大正製薬『免疫ケア』という商品があります。その届出表示は次のようになっています。“本品には、プラズマ乳酸菌が含まれます。プラズマ乳酸菌はプラズマサイトイド樹状細胞に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています。” とあり、「免疫力」という言葉は使われていないのです。
この商品のみならず、「免疫」というキーワードを使った商品は免疫機能の維持を目的としています。
「免疫」と「抗体」の関係について
免疫」と関連して、「抗体」という言葉も聞いたことがあるかもしれません。人体はウイルスや花粉などの抗原が侵入した際、対抗するために専用のタンパク質=「抗体」を作ります。抗体にはいくつかの役割があり、たとえばウイルス感染症の場合はウイルスに侵された細胞に抗体が結合すると、他の免疫細胞が活性化して感染した細胞を破壊させる役割を担います。
「免疫」は表裏一体
子供から大人まで発症する「スギ花粉症」という症状があります。これはご存知の方も多いかと思いますが、単純化すると抗体を作る免疫機構が働きすぎて、異物を外に出す力が強くなりすぎ、涙、鼻水、くしゃみという体外に異物を排除する機能をフル稼働してしまうために起こる症状(アレルギー)です。その症状を抑える薬として抗ヒスタミンや抗アレルギーといった、免疫機構に抗体を作る指令を与えない薬を使用します。
※新型コロナ感染初期に、よくニュースになった「サイトカインストーム」も免疫機構の暴走といえます。興味のある方は、調べてみて下さい。
「免疫」は維持が大切
「免疫」とはUPするものではなく(そもそもできない)、システムを維持することが大事です。
免疫機構を維持するために専門家の多くが提唱しているのは
- 一日三回バランスの良い食事をとる
- 適度に運動する
- 睡眠をきちんととる
- ストレスをためないようにする
ことです。
「免疫」のバランスを崩すこと生活習慣について
逆に免疫機構がうまく働かなくなる悪い生活習慣にも気をつけなくてはなりません。
・食生活の偏り(過激なダイエットも含む)
・喫煙
・アルコールの過剰摂取
・睡眠不足
・過激な運動(実例として、フルマラソンの後、風邪をひきやすいなど)
・運動不足
・ストレス
などは、免疫機能のバランスを崩す生活習慣といえます。
偏った食事をせずに、適度な運動をして、趣味を楽しんで、しっかり睡眠をとり、生活全体のバランスをとることは健康で元気に過ごすために大切なことですね。体調不良の時は、遠慮せずにしっかり休めば、あなたの免疫機構はしっかり働いてくれます。
今年も猛暑が予想されています。休んでも不調な状態が続く時は、お近くの店舗の薬剤師、登録販売者にご相談下さい。
付録:今回の薬用植物
「ジキタリス」
ジキタリス(洋地黄、Digitalis)は、オオバコ科ジキタリス属の多年草。
ヨーロッパ原産で観賞用の品種も栽培されているが、薬用としてはDigitalis purpurea Lの葉を処理したものを用いる。強心利尿薬として用いられる。
含まれる主な漢方薬
特になし。現在は化学的に合成されたものを西洋薬として用いる場合がある。